大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)6185号 判決
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〔判決理由〕第三、傷害、後遺症
<証拠>によれば、原告は本件事故により請求原因一の(五)記載どおりの傷害を受け、治療経過を経た(総治療期間一五七日、入院日数五五日、通院実日数九日)が、脾臓を失う後遺症を残した事実が認められ、右認定に反する証拠はない。右の後遺症は自賠法施行令別表後遺障害等級八級一一号該当と認める。
第四、損害
一、逸失利益
原告が本件事故当時満三才の幼児であつたことは当事者間に争いがないところ、前記第三認定のように原告は本件事故により脾臓を失つたのであるから、成育後においても、その稼働能力に何らかの支障をきたすであろうことは容易に推認されるところである。そして、八級の後遺症の労働能力喪失率は、通常、四五パーセントとされている(労働省労働基準局長通牒昭和三二年七月二日基発五五一号、昭和三五年一一月二日基発九三四号参照)が、原告の将来に就く職種(これは全く不明ではあるが)によつては後遺症による影響が比較的軽微な場合もありうるし、成育するまでに受けるであろう種々の教育や訓練、身体の適応性等の諸点を考慮すれば、労働能力喪失の程度を控え目に認定すべきであり、本件に顕れた一切の事情を考慮して、原告の労働能力の喪失率は三〇パーセント程度とし、その状態が稼働可能時期である一八才時より五五才時まで三七年間継続するものと認めるを相当とする。しかして、一八才時の男子労働者の平均年収額を昭和四四年賃金センサスにより、また、中間利息の控除をホフマン複式年別計算を用いて、原告の得べかりし利益の現価を算定すれば、次のとおり金一、八三四、九六五円(円未満切捨)となる。<二、三、略>
四、好意同乗の主張について
被告らは、被告堤が原告のため原告の父の了解のもとに①加害車に原告を同乗させたもので、原告は好意同乗にあたるから、損害額の算定につき考慮すべきであると主張するので考えてみるに、<証拠>によれば、被告堤は水道工事請負等を業とする訴外明和工業株式会社に勤務し下請工事の監督などの業務に従事していたものであり、また、原告の父義明は同訴外会社の下請業者で、本件事故当時東大阪市宝持の水道工事現場で同訴外会社から下請した工事に従事していたもので、同被告と義明とはかねてから面識があつたが、事故当日、被告堤は本件①加害車を運転して右義明の工事現場の見廻りに赴き、帰ろうとした際、工事現場に義明の連れて来ていた三才の幼児である原告がいるのを認め、当日は戸外が寒かつたので、同被告方に連れ帰り同被告方の原告と一つ違いの子供と遊ばせようと考え、原告の父の承諾を得て同車に原告を同乗させ帰宅途中、本件事故を発生させるに至つたものであることが認められる。ところで、無償で好意的に他人を自動車に同乗させ運転途上同業者に人身事故が発生した場合に、運転者ないし運行供用者の無償同乗者に対する責任が否定ないし軽減されるか否かについては種々の見解があり帰一するところを知らないが(判例タイムズ二六八号二四頁以下、八四頁以下参照)、無償同乗者に対する責任制限の規定が設けられていない我国においては、軽々しく無償同乗者に対する責任制限を認めるべきではなく、同乗者に運行供用者性が存する場合、同乗者に過失相殺の対象となる過失が認められうるような場合、同乗者が賠償請求権を行使することがいちぢるしく信義誠実の原則に反し権利濫用にわたると認められる場合などを除き、原則として、運行供用者(運転者)は無償同乗者に対する責任を免れないものと解するのが相当である。本件においては、前記認定の事実からして三才の幼児である原告の①加害者への無償好意同乗がたとえ原告の父の承諾のもとにされていても右の例外事由にあたるものとみることは到底できないので、被告らの主張は採用しない(なお、付言するに、仮りに①加害車側の責任が何らかの事由をもつて軽減されたとしても、共同不法行為の関係にある他車である②加害車側がこれによつて責任が軽減されると考えることはできない)。